試合を左右する見えない「ゲームチェンジャー」阪神甲子園球場と『浜風』のドラマ

執筆記事

高校野球の聖地 「阪神甲子園球場」
毎年8月に全国各地から勝ち上がってきた高校球児たちが熱い試合を繰り広げ、
数々の名勝負を生み出されてきたこの場所は、時に試合の行方を左右してしまう、
ある気象現象が存在します。

それは「浜風」です。

●「浜風」の正体は? キーワードは「海陸風」

この「浜風」、気象現象としては「海風」と呼ばれ、海から陸へ吹く風のことを指します。
では、この海風が吹くメカニズムをみていきましょう。

日中、晴れていると日差しによって陸上の空気が暖められて、上昇気流が発生します。
この時、陸地側は気圧が低くなります。相対的に冷たい海の上は気圧が高くなり、
風は気圧の高い方から低い方に吹くため、海から陸に向かって風が吹くというわけなんです。
一方、夜間は全く逆の現象が発生します。
太陽が沈み、陸地側の空気が冷やされると下降気流が発生し、気圧が高くなります。
冷えにくい海は相対的に暖かく、気圧が低くなるため、陸から海に向かって風が吹く
「陸風」と呼ばれる現象が発生します。
昼夜で風の吹く向きが入れ替わる気象現象は「海陸風」と呼ばれています。

では、甲子園球場(以下、甲子園)はどの方向から浜風が吹いてくるのか見ていきましょう。

甲子園はホームベースからセンターのバックスクリーン方向がほぼ南を向くようにつくられています。

球場から見ると南西方向に大阪湾の海が広がっているため、浜風は「南西から北東」に向かって吹きます。
つまり、甲子園のライトスタンドから風が吹いてくるということになります。

バックスクリーンの上に掲げられている国旗や大会旗がホームベースから見て、
左にたなびいていれば、浜風が吹いている証拠です。
逆に右にたなびいていれば、浜風とは反対の風が吹いていることになります。

●浜風は攻守ともに大きな影響を及ぼす

浜風それ自体は海からの涼しい風ですが、時に選手たちを翻弄します。
では、どのような影響を及ぼすのか具体的に見ていきましょう。

まずは、攻撃側(バッター側)。
甲子園は右打者が有利、左打者は不利と言われています。
その理由は、引っ張ってライト方向に飛ぶことが多い左打者は大きなフライが浜風によって押し戻され、打球が失速しホームランが出にくいからです。一方、右打者は引っ張って大きなフライをレフト方向に飛ばすと浜風に乗って打球がのび、ホームランが出やすいというわけです。
つまり、左打者は、ライト方向にはフライではなく浜風の影響を受けにくい「ライナー性の低い弾道の打球」を飛ばすか、流し打ちをしてレフト方向に大きな打球を飛ばした方が、より浜風を味方につけられるということにはなりますが、打撃の技術力を求められることになります。

続いて、守備側。

打者が打った外野フライが浜風に流されて軌道がずれていくことで野手が目測を誤り、落球してしまうことがあります。さらに、内野に上がった高いフライは浜風により流され、内野手どうしがお見合いをして捕球できずヒットになってしまったりするケースもあります。こうなればピンチ拡大、失点につながってしまうこともしばしば・・・。これは高校球児に限ったことではありません。時にはプロ野球選手をも翻弄し、エラーを誘うということもあります。
攻守ともに大きな影響を与える「浜風」は試合の行方を左右する「ゲームチェンジャー」といってもいいかもしれません。

●甲子園と言えば「六甲おろし」の大合唱 でも夏には吹かない?

甲子園と言えば、高校野球だけではありません。私もファンの一人、プロ野球「阪神タイガース」の本拠地でもあります。そして野球ファンなら一度は聞いたことがあろう、阪神タイガースを象徴する球団歌「六甲おろし」。

「〽六甲颪に颯爽と~」という歌詞から始まる、この「六甲おろし」は甲子園の北側にある六甲山地から吹き下ろす北よりの強風のこと。ただし、この風が吹く季節は冬のため、プロ野球のペナントレースが行われる季節にはほとんど吹くことはない風です。
(まれに台風などが東海地方などを通過していく際は、夏や秋に吹くことがあります。)

ちなみに、阪神タイガースファンに親しまれている「六甲おろし」、実は歌のタイトルではなく通称。正式には「阪神タイガースの歌」というそうで、作曲者は古関裕而(こせきゆうじ)氏。
この名前を聞いてピンと来た人もいるかもしれませんが、夏の高校野球の大会歌「栄冠は君に輝く」の作曲者も古関氏。甲子園にまつわる2つの曲が同じ作曲者というのも運命的なものを感じてしまいます。

●浜風を制するものが、甲子園を制す?

まもなく始まる夏の高校野球、そしてプロ野球を観戦する際はぜひバックススクリーンの上にたなびく旗の向きに注目してみてください。試合の行方を左右する「浜風」を意識してみることで、野球観戦の面白さがより一層深まるかもしれません。

執筆者:真治大輔
タイトルとURLをコピーしました